第5回(2021年01月26日掲載)
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世界中で新型コロナウィルスの患者数増加が続き、イギリスではロックダウンを施行したにも関わらず患者数増加を止められない状況にありますが、その一因として変異株の出現が示唆されています。この変異株は残念ながら空港検疫をすり抜け日本国内でも散見されるようになってきたことが、ニュースでも話題となっています。また、南アフリカ共和国からの変異株も空港検疫で見つかっています。そこで今回はイギリスと南アフリカで生じた変異株の新型コロナウィルスについての情報を提供します。
イギリスからの変異株(VOC-202012/01)は、イギリス国内では12月上旬に最初に報告されたもので世界50か国以上において検出されています。イギリスにおける解析では今までの流行株よりも感染性が高く、伝播のしやすさを最大70%程度増加する可能性が報告されています。また、ジョンソン首相は会見で重篤化しやすい可能性があると述べており、30%程度致死率が高いとの報告があるものの現時点では、重篤な症状とこの変異株との関連性は明確にはなっていません。
南アフリカ共和国で確認された変異株(501Y.V2)は南アフリカ共和国内では8月上旬に発生し、11月中旬にはほぼ全ての症例を占めていたとされており、世界20か国以上で検出され、こちらも感染性が増加している可能性が報告されています。
変異株で最も懸念されることは、海外ではすでに施行開始され国内でも近いうちに施行開始される新型コロナウィルスワクチンが、この変異株に対しても有効であるかということですが、まだ確証はないものの少しずつ情報が出てきています。日本国内で最も早く投与が開始されるファイザー社製品は、変異株に対する調査初期報告でイギリスからの変異株については有効性の問題はないとしています。モデルナ社製品の変異株に対する調査初期報告は、イギリスからの変異株については同様に有効性の問題はなく、また南アフリカ共和国からの変異株についても効果が認められたとしています。しかし、南アフリカ共和国からの変異株については抗体の持続期間が短く、場合によってはこれまで推奨されている2回接種ではなく3回接種が必要になるかもしれないとしています。
コロナウィルスは球体の表面からスパイクタンパクと言われる棒状ものがたくさん突き出ているような構造をしていて、これが感染する細胞に吸着する上で重要な役目をしています。そしてコロナウィルスは2週間程度で3万塩基ある遺伝情報の1か所程度が変異していますが、今回のこの変異株が問題となっているのは、スパイクタンパクの一部に変化が起こった変異であるからで、そのために感染力に影響が出たと考えられます。またファイザー社製やモデルナ社製のワクチンはこのスパイクタンパクを標的として中和抗体を作り出すものですが、いくつものスパイクタンパクを標的としているので、わずかなスパイクタンパクの変異があったとしても全く効果がなくなるとは考えにくいとされています。またもしスパイクタンパクの変異が多く、ワクチンの効果が不十分になったとしても、2カ月弱で新たな変異株に変更対応したワクチンの作製が可能であるとのことです。
変異株であっても、個人の基本的な感染予防策は、従来と同様に、3密の回避、マスクの着用、手洗いなどが推奨されることに変わりはありません。むやみに恐れる前にきちんと感染対策をすることが重要です。
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